1950年代、1960年代の脳の情報変換に関する一大発見は、R.メイヤーズとR.スペリーによって始まった(Meyers & Sperry, 1953)。彼らはネコの右脳と左脳をつなぐ神経接続(脳梁)を切断すると、右脳と左脳がある程度独立して機能するらしいことを発見したのである。この手術が精神活動を損なう恐れはなさそうだったので、スペリーらは慎重に選び出した被験者たちにこの手術を施した(Sperry, 1964)。この被験者たちは、重症の、制御不能の「グラン・マル」すなわちてんかんの大発作を起こす患者であった。てんかんの原因が一方の脳にあるなら、この手術によって少なくとももう一方の脳にてんかんが広がるのを防止できるだろうというのが彼らの理屈だった。手術の結果は、てんかんの軽減という意味では大成功だった。ところが心理学者たちがこの「脳を分割された」患者を注意深く調べたところ、右脳と左脳では情報の変換あるいは処理のされ方に本質的な違いがあることを示す、一連の興味深い事実と出会ったのである(Gazzaniga, 1967, 1985)。

心身のコミュニケーションと治癒の探究という本書の目的にとって何よりも特筆すべきことは、左脳は発話の言語的変換や分析的思考をとくに担当しているのに対し、右脳は、情動や想像、そしてとくに身体のイメージ化の特徴である全体的、類推的な情報交換で、より支配的な役割を果たしているということである(Achterberg, 1985)。ここから、右脳の情報交換モードは、大脳辺縁−視床下部系、およびプラシーボ反応や催眠療法における心身のコミュニケーションとより密接に関係しているという、重要な仮説が導かれる。

I.ウィクラマセケラはこれを次のように要約している(Wickramasekera, 1985, pp.274-275):

プラシーボによく反応する患者では、催眠状態の患者と同様、脳の主言語半球〔左脳〕の特徴である、批判的、分析的な情報処理モードが抑制されている。プラシーボによく反応する人たちは、他の人々には脈絡もなく無意味に起きたと思われる出来事の間に、概念的その他の関連性を認めがちである。このような人々には、優位半球(左半球)の特徴である、疑いや不信といった情報モードから生じる情報信号の抑制が見られる。催眠状態の人々と同じく、プラシーボに反応しやすい人も、豊富に仕込んだ独自の主観的な考えで薬の効能を誇張しつくり上げ、実際に効果を高めてしまう。そのかわり、こういった人たちは、否定的な話を聞くと、薬の効力が低下したり、まったく効かなくなったりするかも知れない。

一方、プラシーボに反応しない人たちを、A.シャピロは「柔軟性がなく、型にはまった考え方で、心理的影響を受けない人」と描写している(Shapiro, 1971, p.445)。これは、催眠誘導されにくに人たちの描写と驚くほど似ている。催眠誘導性すなわち暗示へのかかりやすさは、右利きの人ではおもに右脳(劣位半球)の機能であることが、次第に立証されてきた(Bakan, 1969; Graham & Pernicano, 1976; Gur & Gur, 1974; Lachman & Goode, 1976)。劣位半球の機能には、散漫で相関的、同時進行的な情報処理をともなう、全体的、想像的な精神活動が含まれている(Ornstein, 1973; Sperry, 1964)。無作為に発せられたデータ(ロールシャッハテストのインクのしみるような)に何らかの関係や「意味」を求める傾向は、劣位半球の特徴とされる創造的な精神活動の一面と見ることができよう。こう考えれば、プラシーボに反応しやすい人、催眠状態の人に共通する特徴を説明することができる。
(精神生物学p.44-45から引用)




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