感覚情報がどれだけ《創造的》に知覚されるかを感じ取るには、色覚を例に取って検討するといい。網膜では、実は桿状体および円錐体と呼ばれる網膜の小さな細胞が、まず外界から最初の視覚情報を受け取る。円錐体には3種類あり、それぞれがスペクトル上の特定の位置にある光に対して敏感に反応する (スペクトルとは、目に見える色の全範囲をいい、紫、青、緑、黄、橙、赤の順に並んでいる)。この仕組みに従ってスペクトルの特定の光を受け取った円錐体は、大脳にメッセージを送る。円錐体は、今目に映った《色》が何色だったのかということは正確に把握していない。ただ、それが自らの担当範囲内の光であることを承知しているにすぎない。あるタイプの円錐体は紫から青緑までの波長の光を拾い上げ、紫色の光に最もよく反応する。別のタイプの円錐体は青から黄までの光を拾い上げ、緑色の光に最もよく反応する。残りのタイプの円錐体は緑から赤までの光を拾い上げ、黄色の光に最もよく反応する。3種類の円錐体の担当範囲が特に重なり合うのはスペクトルの中央部分にある色(緑と黄)であり、その結果、これらの色は、赤や青より《鮮やかに》感じられる。各色を個別に検査した結果、それぞれの鮮やかさに差はないことが立証されている (Gordon, 1978, p.228)。

大脳の情報入手先が、担当範囲の重なり合う3種類の円錐体のみだとしたら、大脳はどのようにして《現実にそこにある》色を判断するのだろう。見積りを作っているというのがその答えだ。大脳は、視覚野の特定の《色》の領域において、隣り合ういくつかの円錐体から届いた結果を比較し、実際にどの色がそこに存在しているのかを解き当てるために3種類のサンプルを作成する (Cairns-Smith, pp.163-4)。私たちが《見ている》色は、極めて複雑な推量の産物だ。それどころか、隣りにある色次第で、その色が変わって見えることにも気づいているのではなかろうか。青は、隣りに緑があるといかにも《いい感じ》だが、隣りに赤があると《どぎつく》感じられる。逆もまた然りである。ある色を暗い色で囲うと、その色の濃さ、あるいは純度が減じたように感じる (Gordon, 1978, p.228)。さらに、どんな色に見えるかは、その時にどういう感情を抱いているかによっても左右される。普段の会話にも「今日はブルーな気分だ」とか「世の中がバラ色に見える」などといった言い回しが出てくる。すでに述べたことだが、感情にまつわる情報が色の知覚を変えるというプロセスは、実際、外側膝状体にある視覚システムにしっかり組み込まれているのである。

最終的に色を判断する視覚野は、正確な位置がわかっている。脳卒中などによって大脳のこの部位に損傷が生じると、突然何もかもが白黒にしか見えなくなる (後天的脳性色盲)。ときには、視野の半分に色彩があり、残りの半分は《白黒》にしか見えない状態になることもある (Sacks, 1995, p.152)。この現象が初めて報告されたのは1888年のことだが、1899年から1974年までの間、医学文献でこれに関する論議はほとんど行われていない。医学研究者オリバー・サックスは、どのような《製造過程》を通ってものが見えるのかを示す事実に対して、文化的に不快感を覚えるためにそういうことが起きるのではないかと述べている。

1957年、ポラロイドカメラを発明したエドウィン・ランド(Edwin Herbert Land)は、人間の脳が色を《作り上げる》方法について、驚くべき実演をしてみせた。彼は、黄色の光フィルターを使って静物写真を撮ったあと、その画像の白黒のスライドを作った。このスライドに黄色の光を当てると、静物の像が浮かび上がったが、見えたのは黄色の光を発している部分だけだった。次に、橙色の光フィルターを使って同じ静物の写真を撮り、白黒のスライドを作って、橙色の光を当てた。今度は、橙色の光を発している部分のみが見えた。最後に彼は、スクリーンに黄色と橙色の光を当てながら、2枚のスライドを1度に写した。見物者は、黄色と橙色のついた像が見えるだろうと思っていた。しかし、実際に見えたのはフルカラーだった。赤、青、緑、紫・・・実物どおりの色がすべて見えたのだ!最初に黄色の像と橙色の像をそれぞれ見て、両者に差異があることを知っただけで、見物者の脳は《元の現場》にあったはずの色のを推定したのである。フルカラーに見えたのは錯覚だ。しかし、これを同じ錯覚を脳はこの瞬間にも行なっている (Sacks, 1995, p.156)。いうなれば、今あなたが見ている色は、そこにある色ではなく、あなたの脳が作りあげている色なのだ。(RESOLVE 自分を変える最新心理テクニック神経言語プログラミングの新たな展開p.29-32から引用)




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