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〈意識内容のリフレーミング(content reframing)〉というのがセラピーではよく用いられます。この名前は、意識内容(content)を明確に知らないとリフレームできないところからきています。意識内容のリフレーミングには二種類ありますが、両方の例を挙げましょう。

かつてレスリー・キャメロン=バンドラー(Leslie Cameron-Bandler)がワークショップで担当した婦人のケースを紹介しましょう。彼女は強迫行為に悩まされていました。電球のほこりを払うほどの潔癖症なのです。家族は、母親であるこの婦人とだいたいのところうまく折りあっていましたが、じゅうたんの件では困っていました。この婦人は、誰にもじゅうたんの上を歩かせないようにと懸命でした。足跡がつくというのです。泥よごれなどではなく、じゅうたんがただへこむだけなのですがね。

私が子どもの頃、親類にこんな人達がいました。彼らはじゅうたんを買うと、その上にプラスチック製の通り道を敷いてその上しか歩かせないようにする、といった具合でした。ピアノを買えば、鍵盤を拭くのがいやだから誰も弾けないように鍵をかけておくような人達です。この人達は、写真の中で生きていればよかったのです。家の中に立って、写真をとり、死んでからは、家のあるべき場所に写真を掛けておけば、ずっと楽だったでしょう。

さて、件の婦人がじゅうたんに足跡がついているのを見つけた時の反応は、それを消すための本能的な反射運動ともいえるものでした。つまり、掃除機をとりに飛んでいって、じゅうたんを掃除するのです。彼女は専業主婦だから、一日に三〜七回もじゅうたんを掃除していました。そして、家族に、裏口からはいることや、靴を脱いでそっと歩くことを守らせようと必死になり、そうしてくれないと小言を言うのです。

皆さんは、足に体重をかけずに歩いてみたことがありますか?私の知る限りでは、そんなことができたのは、昔のテレビ番組「カンフー」の中で、薄紙を広げた上を足跡を残さずに歩いてみせた俳優だけですよ。そういう人だけが、この婦人と結婚して同じ家に暮らせるわけです。

ところで、この家族には非行少年や麻薬常用者がいたわけではありません。三人の子どもは、セラピストであるレスリーの応援をしてくれたくらいです。この婦人は、自分の家でなければうまくいくらしいのです。食事に行ったり、休暇で出かけたりすれば何の問題もないのですが、家にいると、彼女は皆からガミガミ屋といわれるようにやるのです。彼女はいろいろなことについてガミガミ言いましたが、主な原因はじゅうたんでした。

レスリーは、婦人にこう言いました。「目を閉じてじゅうたんを思い浮かべなさい。どこにも、一つの足跡もついていなくて、清潔でふっくらとしたじゅうたんを・・・」。婦人は目を閉じて、このうえなく幸せそうに、極楽にいるようにうっとりと微笑みました。次にレスリーが、「そのきれいなじゅうたんが意味しているのは、こういうことです。あなたが全くひとりきりで、愛する大切な人達は誰もまわりにいない、ということなんですよ」と言うと、婦人の表情はがらりと変わって、みじめな気分になったのです。そこでレスリーは「今度はじゅうたんに足跡をいくつかつけてみて、それは、あなたにとって何よりも大切な人達がそばにいるしるしだと思ってごらんなさい」と言うと、婦人の気分はまた良くなりました。

このような介入を、〈感情の交換(trade feelings)〉とも、〈方針の転換(a change of strategy)〉とも、〈アンカリング(
anchoring)〉とも呼ぶことができますが、〈リフレーミング(reframing)〉というふうに考えると、都合が良いでしょう。この種のリフレーミングにおいては、外界からの刺激自体は変わらないけれども、その意味するところが変わるのです。問題行動の原因をなす刺激が、それ自体は悪いものではなく、実際に変える必要がない場合には、いつもこのリフレーミングを用いることができます。

この婦人の場合、別な解決法があるとすれば、矛先を家族に向けて、体重を軽くして足跡を残さないようにさせることぐらいでしょう。婦人の母親は、そうしようとしたのですが、むろんうまくいきませんでした。

人が何かの感覚体験を不快だという場合、実際には、その感覚が引き起こす反応を不快がっているのです。反応を変える一つの方法は、感覚体験そのものが反応の原因ではないのだ、と理解することです。経験の内的意味を変えれば、反応も変わります。

潔癖症の婦人については、どういう時に気が済まなくなるかについて、ある内部作戦(strategy)があるのがわかっていました。休暇のときや、レストランでは何ともないのですからね。私の推定によれば、彼女の反応は場所の所有と関連しているので、よその家であれば汚くても気にならないのです。自宅は彼女の領域であって、その範囲でだけ気が済まなくなるのです。あるいは、車庫や裏庭は領域にはいっていないかも知れません。家中きれいにしておくけれど、子ども部屋は家の一部と考えないことにして、汚くても平気だという人もいます。

こういう人達は、否定的な動機づけという内部作戦を働かせています。台所にはいってみて、よごれた食器がたくさんあるとゾッとして、その気分を追い払うには全部洗うしかないのです。洗い終えると、眺め渡して満足の声を上げます。しかし、清潔なホテルの部屋に入っても、別に満足の声は上げません。その理由は、自分のものではないからです。これを見ても、ある種の判断の方針があることがわかります。

婦人の家族を手助けする一つの方法は、彼女の内部作戦を変えることでしょう。この内部作戦は彼女自身にも困る点があるのですから。しかし、当面の問題を解決してセラピーの上で一定の前進をみるためには、ただ一つ、じゅうたんに関して肯定的な感触をもたせるだけでよいのです。この変換は全体的なものではありませんが、あなた方でもやれることです。ビジネス界に関係ある人は特にそうです。セールスの本質とは、意識内容のリフレーミングそのものなのですから。

〈再定義(redefining)〉とか〈呼びかえ(relabeling)〉とか呼ぶ人もありますが、呼び方はともかく、皆さんが実際に行なうのは、一定の感覚経験に新しい反応を結びつけることです。意識内容はそのままにしておいて、別な意味、本人がすでに考えているのと同じ種類の別な意味をつけ加えるのです。潔癖症の婦人は、じゅうたんの足跡という感覚経験を気分が悪くなるほど重要なこととして判断しているわけですが、同じ足跡を、気分が良くなるほど大切なことだと考えさせれば反応が変わるはずです。

変化を起こすには、リフレームする際、一致したノンバーバルな表現をして、それを裏づけることが絶対に欠かせません。つまり、まじめな表情と声の調子をもって、行なってほしいのです。
(星和書店「神経言語的プログラミング『リフレーミング』心理的枠組の変換をもたらすもの」p.1-4より)

リフレーミング―心理的枠組の変換をもたらすもの
リチャード バンドラー
ジョン・グリンダー
星和書店
1988-04-08


NLP共同創始者ジョン・グリンダー博士認定校
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